ひびにいる人たちを観察する

#19 asuna sano

12:00/西荻窪駅で待ち合わせ。

あすなちゃんとはひびの2年目のオーディションで出会った。あすなちゃんの背負っていた大きいリュックに花がさしてあったのを、今でも覚えている。
ひびの2年目の公演「あたらしい、ひび」の時期に、みれいは生まれた。あれから1年経った。1年前の私と今の私はあんまり変わってないけれど、1年前のあすなちゃんと今のあすなちゃんとは別人なくらい変わってるかもしれない。
あすなちゃんと会うことはみれいと会うことでもあるしなるべく涼しい時期に、と思っていたけど今日は台風が過ぎた影響で、とても暑くなってしまった。しばらくして改札からあすなちゃんが見える。もちろんみれいも、いる。みれいの額を拭いながら、あすなちゃんが、話す。

・・・・・・

暑いね。風が強い。台風のやつかな。
集合場所にしたわりに、わたし西荻窪あんまり知らないんだよね。ここから吉祥寺まで歩いたことなくて、でも2駅だから多分近くて、歩けるんだろうな、みたいな。友達が吉祥寺と西荻窪の間に住んでいて、前にその子の家に行ったから、なんか、行けそうじゃない?って思ってる。西荻窪から吉祥寺まで歩いたことないからさ、歩くと、、嬉しいじゃない?なんか、ふふ。

今日、祝日なのを忘れていて、電車、祝日だと停まんないじゃん、あの速いやつ。乗り換えないかん〜!と思って。

この高架下通りながら吉祥寺行けるかな。暑いから涼しいところ歩きたいね。

いま住んでいる家の周りは小学校が多いから、小学生の夏休みって8月で終わるじゃん。だからさ、私は特に関係ないんだけど、夏休みはもう1ヶ月前には終わった感じ。街自体が、ファミリー層が多くて、年齢層低めな。だから保育園もめっちゃいっぱいある。やさしい街、整ってる。公園も多いよ!整ってる、ふふふ。

昔は高円寺と阿佐ヶ谷の間に住んでたから、あの辺はあの辺で楽しくて好きだったんだけど、今の住んでるところは整っていて、暮らしやすい。結構田舎だけど、駅周りは割といろいろある。生活のことだけなら、新宿に出なくても済む感じはある。

あ、ここ知ってる、、、行きたいと思っていたモロッコ料理屋さんだ、でもやってないね。こういうこと、よくある。調べてさ、行きたいなーっていうか、いろいろあんだな、って思って、でも本当は別に行く気もないからさ。実際は。でもこうやって歩いていると見つける、みたいな。そして大体、閉まってる。

みれい、寝た。眠たかったんだよね、普段は今はお昼寝の時間だから。さっきまであんなに喋っていたのに、急だよね。
しゅっとしてきた?そうかも。歯も生えてきた。表情筋がついてきたのかな。表情が、確かに豊かになってきたかも。

いまみれいは掴んで自分で食べたくて。結構、食べ物の食べやすさはポイントになってる気がする。スプーンであげるスタイルだと嫌がったり。自分で食べたい!みたいな。形状が大切。歯もそんな全部、生えてないから。

中央線って駅が似てるよね。まあ中央線なんだからそうなんだけでさ。でも似てるよね。でもある程度向こうに行くと、結構雰囲気変わったな、みたいな。そっちはそっちで似ているんだけど。吉祥寺は似てるとか以上に、まず大きい駅だから全然違うし。三鷹もまたなんか、全然違うし。あの辺から西は結構違うかも。昔、太宰治が好きで、三鷹に太宰のお墓があるの。だから時々行ってて。でも特にお墓以外はなにもなかった。お墓があるのと、太宰の資料館がある、それくらいだった。お墓は、ひっそり、とかではないけど普通にある。目立ってるわけでもなく、普通にあるよ。

もうほぼ吉祥寺じゃない?吉祥寺の賑わいを感じるよ、私は、、、。吉祥寺駅まで500mって書いてある!もうゴールだ。でも吉祥寺のどこをゴールかは決めてなかったや、、、。どこか座れそうなところがあったら座ろうか。結構歩けたね、西荻窪から。すぐ着いちゃった。

なんかさ、この前住んでいたところさ、高円寺までも阿佐ヶ谷までも20分だったからさ、20分って時間に慣れてて。いまも隣の駅まで20分で、だから結構歩いて行ってるんだけど、最近自転車を乗ることを覚えて。自転車はそもそもあったの、ずっと。でも忘れてて、存在を。高校生からずっと何年も乗ってるやつなんだけど、最近存在に気が付いて。で、自転車に乗ったらめっちゃ楽になって!10分とかで行けるから。しかも重たい、キャベツとか買っても大丈夫じゃん、自転車なら。今まで自分よう頑張ったな、って最近感動している。

大学も自転車で行ってたよ。電車の乗り換えがめんどくさくて。自転車なら満員とかもないし。乗り換えが池袋だったんだけど、5分乗って乗り換えて5分みたいな、なんやかんや、ドアtoドアで40分くらいかかってて、自転車なら30分くらいで行けたから。速くて、ストレスもないから、自転車だな―って。雨の日の電車こそ嫌なんだよ、ムシムシしてるし、自転車使う人たちが、雨の日はみんな電車乗るわけじゃない?

吉祥寺は住んでるところから割と近いからよく来ていて。お買い物とか、なんでもあるじゃん。いいお花屋さんがいっぱいある。最寄り駅にはなくて、いいお花屋さんが。お花屋さんはあるんだよ、でも「いいお花屋さん」がない。私が行きたい花屋ではない。なんか、ブーケとか欲しいわけじゃないんだよな、みたいな。そうなんだよ!ブーケの花が欲しいわけじゃない。吉祥寺はブーケじゃない花屋がたくさんあるからいいよね。

商店街の中入ろうか。

普段1人で来てもお茶とかしないから、喫茶店とかも入らない。だからこの辺のお茶が出来るところ、全然把握していない。
わたしカルディとかしかいかない。大きいカルディがあるの。カルディにいって、あとあそこの薬局が、よくポイント10倍の日をやってるから行って、、、ポイント貯めるのが好きで、10倍とか聞くとわくわくしちゃう。ポイント対象商品を見て夕飯決めるとかも、よくある。で、なんか、なにやってるかな、、、吉祥寺よく来るけど、なにやってるんだろう。人に紹介するようなこと、やってない。よく行くタイ料理屋はあるけど。

あ、わかった!こっち。座れるところ思いついた、その、カルディのある建物の中に座れるところあった。吉祥寺、めっちゃカルディあるの。そのうちの1つが今から向かうところで、もう1つは路面にある。

あれ、ここだったかな、、、。あれ、椅子だけになってる。前は机もあったんだけど。まあいいや。

最近みれいが1歳になって。無事に誕生日を迎えて。最近なにやってるかな、、、みれいがめっちゃ歩く。めっちゃ歩いて、追いかけ回したら日々が終わる。気づいたら1日が終わってる。もう完全に立ってるよ、立って、歩いてどっか行くから、ちょっと置いといた物とか持っていかれて、大変。なんかもう、毎時間、部屋が散らかっていく。直しても直しても、動かす人がいるから。楽しいけど。立って歩いてる、そうなんだよ。

9月に入ってから、結構、去年のことを考えていて。1年前何してたかなって。で、最近もまた考えるんだけど。でも最近考えると、あ、もう、生まれてる!ってなる。9月の始めとかに振り返っていた時は、まだお腹の中だったな、そわそわしてたな、とか考えてたんだけど、今日とかだったらもう生まれて退院した頃だな、って思って、ああ、ってなる。来週はもう10月だよ、早いね。体感ではまだ5月くらいだよ。時間感覚が無さすぎて、もう、過ぎていく。

常にみれいにベクトルを向けていて、みれいが立ったとか歩いたとか、日々、見ていて、それでしかないから、私の時間軸が。だから10月とか9月とかわかんなくて。1歳になったのはわかるから、まあ9月なんだけど、それよりもみれいを見てる視線の方が長いからその時間軸で私は生きてて、でも気づいたらきっと今年が終わるじゃん、びっくりだよね。1日がめっちゃすぐ終わる。自分のテンポじゃないから。1人だったらご飯とか適当でいいじゃん、なんなら食べなくてもいいし。でもみれいに時間通りにあげなきゃいけないし、時間通りっていうか、それなりの時間に。ご飯ってさ、作ったり片付けたりとかも含めると結構時間かかるんだよね。それでこう、片付けが終わるとまた遊んで散らかってるから部屋を片付けたり、、、あ、みれい、起きた。なに?悪口言ってないよ〜。

みれい体温高いの、めっちゃ。だからもうすごい暑い。ぴったりくっついてて。新陳代謝がめっちゃ良くて、かたぶたがすぐ無くなる。そう、めっちゃ早い。もう治ったの?って、めっちゃ早い。くるくるしてる、肌が、生まれ変わりが。

ずっとさ、赤ちゃんだと思ってたらさ、割と赤ちゃんじゃないなって最近気づいて。日々さ、1㎜ずつとか伸びてくわけだから、、、なんか、気づいたらこんな大きくなってた。昔はぶかぶかだった服が、今はつんつん、つんつるてんみたいな。おっきくなったんだな。そうこうしているうちにさ、普通の女の子になっていく。

最近悩んでることがあってさ、わたし親を「お父さん」「お母さん」って呼んできたから、でも旦那が「パパ」って呼んで欲しいらしくて。なんか必然的に私は「ママ」になってしまって。でも私は「お母さん」がいい気がするって最近気づいて。
わかんないけど「パパ」って呼んで欲しいらしい。私が「お母さん」がいいように、なんとなく「パパ」がいいんだろうけど。どうしたらいいんでしょう、って悩んでる。「ママ」も、まあ慣れてきたけど、ふと「お母さん」って聞くと「いや『お母さん』だわ!」と思って。「お母さん」っていう、暖かさが、欲しい。ふふふ。「ママ」ってカタカナじゃん。とんがってるし、怖いじゃん。「お母さん」がいいな、って友達に話したら、「『お母さん』と『パパ』でいいんじゃない?」って言われて、まあ、確かに。出来るかな。子どもが混乱しそうだよね。
でも「お母さん」とか「ママ」とか呼ばれ方を決めてそれで教えたらさ、この先、基本的にずっと、私はみれいにそう呼ばれ続けるわけじゃない?結構大切だよ、大切な問題だよ。
「お母さん」と「パパ」の組み合わせでいけるのかな?「ママ・パパ」がセットってわからないうちに教えて。でもさ、ちょっと大きくなってみれいがわかるようになったら「どういうこと?」ってなりそうだよね。「ママ」から「お母さん」に途中で変える人っているじゃん。でも私はずっとお母さんを「お母さん」って呼んできたから、変えるタイミングもわからないし。
「お母さん」がずっと私の普通だったから、急に「ママ」ということが出現して、どうしたらいいのか迷って、悩んでいる。でもそれだけじゃなくて、私は結構、人に合わせがちな人間だってことに気づいて。振り替えると。結構、人に合わせて生きてきたな。今も実際、「まあママでいいわ」ってなっちゃってたわけだし、でもそういうのが溜まると、嫌になっちゃうから、どうしたらいいのかわからない。まあいいや、が多くて、まあいいや、の有りすぎは困るし無さすぎもまあ、大変だけど、なんか難しいなと思って。日常レベルのまあいいやは、我慢出来ちゃうから。
人の前で自分のこと「ママ」っていうの恥ずかしいからさ、その時は「お母さん」っていう。ほんと困る。なんで日本には2つ呼び名があるのか、、、。悩ましい。

もうちょっと大きくなったらみれい自身に、『お母さん』はどうですか?」って案を出す。今はさ、みれいの意志があんまりないからさ、私と旦那のやりたいようになってるけど、意思を持ち始めたらさ、この子の意志だから、「お母さん」を選んだら旦那も何も言えんだろうと。「お父さん」になっても、そうなったらそれしかないんじゃない。

名前を決める時は、割とリミットがあって、あんまりゆっくりしている場合でもなくて。生む前からいくつか案は出してたんだけど生んだらやっぱ違うなって。この感じじゃなくない?って。この子、この顔でこの名前じゃなくない?雰囲気違うよねって。だから結構、生まれてから固めていったんだけど。なんか、「みれい」になった。音が先で、漢字はそのあとから。私は「ほのか」とか、柔らかい感じの名前を出してたんだけど、生んだら違って。そんな柔らかくねーぞ、って。で、「みれい」ってきれいだし、いいね、ってなったよ。「み」は「美」にすぐ決まったんだけど、「れい」をどうしようかなってなって、いろいろ考えて、「鈴」がいい、鈴、なんかかわいい、愛らしいから、愛らしい子になるといいなと思って。あと、妊娠しているとき鈴虫がめっちゃ鳴いてて。鈴虫の鈴も掛けとこーって。それは私が勝手に言ってるだけなんだけど。
でもさ、「みすず」じゃん、普通に読むと。絶対間違えられるし、というか「みれい」って読めるのかな?ってなった。「みすず」じゃん。私は「みれい」で見慣れてるから、「美鈴」は「みれい」なんだけど。

みれい、なに?もうちょっと寝る?痛いよ〜、爪も伸びるのめっちゃ早い。

この子の当たり前は私が作る、この子の基準は私が作ることになるのか、と思って。責任重大。慎重、、、というか怖いことだな。でもみんなそうやって育ってきて、社会が出来てるのか、おお、ってなる。すごいことだよね。自分がほんとにいい、って思っていることだけで育てたい。でも育て方って、私の独断じゃない。1番長く、みれいと一緒にいるとはいえ。

レコーダー食べちゃダメだよ、美味しくないよ―、そんな泣かれても困るよ―、食べれなかったのがそんな悲しい?悲しかったか。

これあげます。かいわれの箱をきれいに洗って持ってきたよ。一昨日の晩ご飯で使った。洗い場にこれが干してあって、これにしよう!って。その時の晩ご飯は、鶏肉と茄子、梅とポン酢。美味しいやつ。ちょっとごま油いれて、茗荷といっしょにかけた。いつも買う食材じゃないけど、その日はかいわれがすごく安くて。みれいのご飯は、アプリとか、本があるし。最初はすごい、本を見ながら作っていたけど、最近は割と自分で考えて作っている。

話せるようになったらいろいろ聞きたいな。なに話すんだろう。いつくらいから話すんだろう、全然わかってない。この前2歳の子に会った時、普通に話してて。個人のペースがあるしね。「ま」の音がよく出る。「まみむめも」は言いやすいみたいだね。「ままままま」って、言ってる。いろいろわかってきてるかもね。

 

13:30/コピス内で解散。

とても久しぶりにあすなちゃんと会って話したわけなんだけど、あすなちゃん自身は全然別人になってなかった。今までのあすなちゃんに、私が見ていなかった期間のあすなちゃんが加わっただけ。お母さんって名前が増えただけ。相変わらずリュックには花がさしてあった。
みれいは会う度に変わっていく。あすなちゃんの意思にみれいの意思が混ざっていって、大きくなって、いつかみれいだけになる。
出会った時と同じ、あすなちゃんの長い三つ編みをみれいがおもちゃにしている様子を思い出しながら、帰った。