ひびにいる人たちを観察する

#24 kaede konishi

 

15:00/逗子駅で待ち合わせ。

初めて逗子で降りる。鎌倉には1度来たことがあったけど、その先に来たことはなかった。行きの電車の中でふと顔をあげると、向かいの人の肩掛けの鞄にウサギが入っていた。ウサギは鞄から出ようとしたり飼い主に撫でられようとしたり、結構忙しく、ジタバタしていた。平日の逗子行きはとても空いていて、その光景に私以外の乗客はどうやら気付いていない。ハラハラしながらウサギを見守っていると逗子に着いた。
小西さんがこちらへ駆け寄ってくる。逗子は小西さんの地元だ。今日はここからバスに乗って移動するらしい。バス停に向かいながら小西さんが、話す。

・・・・・・

ちょっと、1回実家に寄ってもいいですか?あげるものを、取りたくて。

めっちゃ久しぶり。実家帰るの。1ヶ月ぶりくらい。地元でバレエ習ってて。大学4年からかな、週1でバレエ習っていて、でも仕事で全然行けなくて。だから、基本的には週1で実家に帰って来てるの。逗子までは電車が通ってて、逗子から家に帰るにはバスしかなくて。

このバスに乗るよ、最初にICカード、タッチするところがあるよ。

この川がずっと向こうに流れてて、向こう側がいま、ずっと海。いまはだから海岸と平行に走ってる。わたしはいつも山周りのバスを使ってるけど、バスに乗らないとどこにもいけない。このバスに乗ってると結構遠くまで行けるよ、横須賀まで行ける。

お昼食べてきた?なんか、スーパーかコンビニか、途中で寄ろう。今日行くところ、結構奥地なんだよね。

ふふふ、山です。なんか臭い、、、この辺り、坂は多いかも。

最近ごみを家の前に出す方式になったんだよね、収集所じゃなくて、自分の家の前に出して、持っていってくれるっていう。だから大きいゴミ箱がみんな家の前にある。

家、ここだから、、、ちょっと待っててくれる?

これ。知ってる?これちっちゃい頃大好きで、もう、7年くらい前だと思うんだけど、駄菓子屋さんで売ってて、大人買い。ほんとはこの妖怪カードを1枚ずつ切って、10円とかで売ってる。で、買ったんだけどなんかやってみたら、思いの外盛り上がらなくて、、、ずーっと家にあって、これ全部要らないからあげる。後でやってみようよ。でも結構、劣化しているかもしれない。なんか、ねばねばした、ねちょねちょした糊みたいなのが触ってると綿みたいに変わるんだよね。で、煙になる。これ、駄菓子屋で見つけたらお菓子と一緒に結構買ってたかも。好きだったの、好きだったはずだったんだけど、買ったらなんか、こんなもんか、って思っちゃったんだよね。悲しいよ。買ったらすぐもくもくさせてた。上手く煙が起きるかな。微かなんだよね。大人数で同時にやってみたいね。

もう日が暮れてきたね。

そこの裏でタケノコがめっちゃ取れて。竹やぶがあって、小学校の頃は毎年そこでタケノコを取ってた。でもタケノコってめっちゃ大きいのを取ってもさ、超剥くから、中身全然なくて。皮がもう、めちゃくちゃ何重にも。こんなでっかいの取ってもこんな、半分とかになる。結構固くなってるから、大きすぎても難しいよ。すぐ竹になっちゃうんだよね。すごい勢いで繁殖するし。

ここにスーパーがあって、この先にセブンがあるけどどっちがいい?

ここが一色海岸。夏はここに、海の家が出来る。あれ江ノ島だよ。ここが1番好き。他にも結構海はあるけど、ここが好き。
この前小豆島に行ったんだけど、波がなくて。内海だから、なんか、湖みたい。あと波が起きないからなのか潮の匂いも全然なくて。すごい、湖っぽかった。
小豆島にごま油の工場があって、あと醤油の蔵もあって、だからごま油の匂いのするゾーンと、醤油の匂いのするゾーンがある。街一体にすごく匂いがする。

あの鳥居はなんなのかわからないけど、昔からある。

今年もそこで1回泳いだ。なんとか1日だけは泳ごうと思って。夏はね、海水浴場になる。

全体的に何かに挫折するとかって無かったんだよね、たぶん、今までもさ。大学に進学するのもお金かかるから、難しいひととかもいるじゃん、やっぱり普通に、当たり前にいると思うんだけど、わたしの家も余裕があるわけではないけど、まあ出そう、みたいな気合いで出してくれたし、就活とかもしてないし、もう結構、だるだるなさ、甘えてんじゃねえ、って感じじゃない?でもなんか、逃げてきて、嫌なこととかつらいことを結構避けてきた結果が、ここにいて。
やりたいことだよ、やりたいことを選んできたから、惰性とかでは全然なくて本当に自分のやりたいことをやってきたけど、同時にでも、嫌なことは避けて。
この前、在学時に親しかった同期の人と話したてたら、その人写真スタジオに就職しててなんか揉まれてきた感がすごくて。「それなりに社会のつらさとかも味わってきたし、」って言ってて、それ聞いた時にやっぱりわたしは結構裏道だな、みたいな。まあでもそれで全然良かったって思ってるけど嫌なことにぶち当たって、強くなる、みたいなことをしてない感じが、ちょっとぬるま湯っていうかさ。そうなんだよね、だからなんかほんと、その立場だから言えるんだろ、とか思われたりとかするんだろうね。

わたし、度胸ないし、なんかいろんな場所に自分を点在させたい気持ちがあって。だからまあ、バレエとかもやってるんだけど。なんか1個ダメになってもまあ大丈夫でしょ、みたいな。そこで自分を保ってる感じがあるから。いろんなところに分身を置いておく。でもどうなんだろうね、それも、置いちゃう感じも多分、守りつつ逃げる、っていうね、ことなのかなあ。それしか自分の心のバランスを取る方法を知らなくて。みんなそこんとこどうしてるんだろう。

1つのことにラブみたいな、それだけにラブ、みたいにやっぱなれないんだなって思ったんだよね、わたしは。でもそれはもう、その人の持ってるモチベーションがそういう、資格というか。そこにもいろんなグラデーションがあって、私はそういう資格を持ったメンタルじゃなかったんだなって思った。そういう場所がいつか現れるっていうのも幻想なんじゃないかなって思っちゃう派で。ない。そういう場所は、どこにも。そういう場所を持ちたくないっていうのもあるのかも。だってそれも世界のほんと一部でしかないじゃん、全てが。って思っちゃって。すごいグローバルな感じになっちゃった、ふふ。

江ノ島のあれ、灯台かな。めっちゃ綺麗だね。家の明かりがさ、線になって、チロチロしてる。

暗いね、ほんと暗い。夜が訪れると、夜の暗さで田舎っぷりが判明するよね。エスカレーターないしね。町に。町内に1つもないの。エスカレーターを使うような施設がないの。エレベーターはあるけど。夜も、ここの海岸は閉まらないよ。

三浦が、もうちょい下ると三浦っていう農家がいっぱいあるところがあって、朝市で安くていい野菜をいっぱい売ってて。親は出かけて、野菜を買いに行く。美味しいし、安いし、いいなあって思う。今住んでいるところは、スーパーしょぼいし、新鮮な野菜が食べれるのがいいな、でも通うにはちょっと遠いな。週1くらいで帰るのが親との距離感もよくて。1週間で溜まった話をちょっとして帰る、みたいなリズムが結構合ってるかな。週1で帰るのはちょっと多いんじゃない?大丈夫ですか?って言われそう。でもやっぱりバレエがあると強制的に休みを作れるから。何もない日はやっぱり来ないよね、疲れちゃって。

怒る時あるよ。でも、言えないんだよね。でも言ってるとは思うな、アタック強い感じでは言えないけど。でも、その人に寄って考えたらまあそうなるよなって思っちゃう、いつも。自分には理解出来ない行動だったりしても、あなただったらそうするよねって思って、結構鎮めちゃうかも。でもその時ちゃんと言わないで、でも言わなきゃなんなくて、言おうと思って、時間が経つと、あんなにイライラしていた感情を湧き上がらせることが出来るのかって不安もある。でもちょっと寝かせて落ち着かせて冷静な言葉で伝える方がいいかもって思ったりもする。人に相談したりすると、そこで発散させちゃう可能性もあって、それはなんか違う気がする。

新しくはじまる感じがあるよ、終わりと始まり。でも悩み事ばっかりだな、ほんと。あ、妖怪煙やんなかった!まあ、いいや。

 

17:40/バス停にて解散。

この海を眺めて来たから今の小西さんがあるんだな、ということをなんだかしっかり感じた。以前から、小西さんの話すことはなんだか、なんだろう、なにかわからないけど印象的で耳を傾けたくなる何かがあるなあと思っていた。今日話していて、海を見ていたからだな、とはっきり思った。文字もない、話さない、おんなじようで2度と同じものはない波の風景、波の音だけ、視界には海だけ、そういう世界で小西さんは、自分の言葉を育んだんだろうと思う。海を見ている時は何にも影響されずに、ただただ自分の力で。帰りの電車の中は人混みや広告で情報の差にくらくらしつつ目を閉じて、でも本物の海を見た後の想像の海はなんだか頼りなく、目を開けてとにかく目に入るもの、全部見ながら、帰った。